忘れない
ダルくなってきた体を引き摺って、僕はノックもせずに保健室に入り込んだ。
「せんせぇ~。風邪ひいた~。くすり……」
って、誰もいないし……。
独り言になってしまったつぶやきも気にせず、勝手にその辺の棚をあさってみる。
ガサガサと風邪薬を探していた後ろで、少しした頃ドアが静かに開いた。
僕は、保健の先生が戻ってきたのかと思い、風邪にやられた無防備で締りのない顔をそっちへ向けた。
振り返った先には、五十代の保健のおばちゃん先生……じゃなく。
僕がいつも目で追ってしまう君がいた……。
「あ……」
意表をつかれた相手に、つい声が漏れてしまった。
君も僕の存在に少しだけ驚いた顔をしている。
「……先生。いないの?」
クラスの違う君と、こうやって話すことなんて一度もなかったから、訊ねられたことに返事をするって言う考えが少しも働かなくて、僕はただ君の顔を見続けてしまった。
「……あの……」
君は、そんな僕に少し困ったような顔をする。
そこで初めて、返事をしなきゃなんて気付いたんだ。
「あっ、うん。先生はいな……っくしゅんっ!!」
うへ……。
かっこわりぃ。
また出てしまったくしゃみで、返事が中途半端になってしまった。
そんな僕を、君はクラスの女子のように笑ったりはしなかった。
「風邪? 大丈夫?」
ちゃんと話したこともない僕を、君が心配してくれる。
「薬、探してるんだよね?」
そうして傍に来て、僕の代わりに薬を探してくれたんだ。