モントリヒト城の吸血鬼② 〜望まれざる来訪者〜

それに最初に気付いたのは、
モントリヒト城を
覆う自身の結界が
突如として消えたことを
姫乃に告げようと
したときだった。

驚く凍夜に、
不思議そうな顔をした
姫乃は、東雲が慌てて
持ってきた手鏡を
覗き込み、悲鳴を
上げた。

手鏡を窓に投げつけ、
割れて飛び散った
窓ガラスの破片から
寸でのところで
凍夜に庇われた
姫乃は、悲鳴と物音を
聞きつけた弟たちが
駆けつけても、
ただただ何かに怯え、
謝罪の言葉を繰り返していた。



「ごめんなさい、お父様。」と。



そうして、自身の変化に
錯乱した姫乃を
丸一日宥め、ようやく
幾分か落ち着いたのが
つい今朝の事。

落ち着いた、といっても、
彼女にいつもの
調子は微塵もなく、
まるで別人のように
大人しくその場に座り、
思いつめた顔で
終始黙りこんでいる
状態だった。

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