モントリヒト城の吸血鬼② 〜望まれざる来訪者〜
役職に就いていないが、
シプレほどこの街で
影響力をもっている
人間はいない。
シプレは今でこそ
娼館の主人だが、
もともとは公爵家の
女中頭で、両親も
弟たちも祖父母も
そのまた先代たちも、
公爵家の
上級使用人として
仕えてきた家系の出だ。
公爵家の上級使用人は
労働階級でありながら、
街の人間にとっては
公爵や公爵夫人、
若君の次にえらいと
いっても大げさな
話ではなくシプレの
家族は常に街で
影響力をもってきた。
その名残か、公爵が
不在で何年も前に
職を辞した今でも
シプレや弟は
町長より発言力が強い。
くわえて、相手が
誰だろうと容赦なく
厳しいことを言う
性格も相まって、
ヘルブストの住人の
大多数はシプレに頭が
上がらなかった。