モントリヒト城の吸血鬼② 〜望まれざる来訪者〜
「…。」
手紙をもとの通りに
折りたたみ、机の小箱に
しまいながら、窓の外を見る。
この窓の向こうのずっと遠い先で、
慌ただしく、しかし、
心静かに臨終のときを
待っているであろうその人へ、
姫乃は深く深く、頭を下げた。
できることなら、
会いにいきたかったが、
姫乃がきちんと身の振り方を
決めるまで、それはしないと
約束していた。
姫乃の決意が固まるまで
待っていてくれたのに、
結局、姫乃はなにひとつ
決められなかった。
そんな姫乃にあてた
最後の手紙の中には、
それを責める言葉も、
急かす言葉もありはしない。
半年前に再発した若い頃
かかった病が、もはや
手の施しようのないほど
進んでしまったことと、
その為にあと半年も
もたないだろうという
知らせしかここには
書かれていない。