モントリヒト城の吸血鬼② 〜望まれざる来訪者〜
「…なにか、思いついた?」
姫乃の様子が変わったことに
気付いた凍夜に、
姫乃は僅かに寂しげな
笑みをみせた。
欲しいものは、ある。
だけど、それは。
「思いついたけど、
ダメだわ。
…わたしが今欲しいと
思ったものは、誰にも…
神様にも、どうする
こともできないもの。」
その言葉だけで、
どういう類いのものかは
察してくれたのだろう。
凍夜は、そう、とだけ
いうと、姫乃を
抱き寄せた。
死んだ人は、もう、
もどらない。
二度と、手に入らない、
彼らとの、時間。
もう一度、両親と…
たくさんの幸せに囲まれた、
幼かったころの姫乃の
日常を過ごせたなら。
そんな、詮無いことを
思ってしまった。