モントリヒト城の吸血鬼② 〜望まれざる来訪者〜

「本当は、画材や
ティーセットの方が
喜ぶかとも思ったのですが、
満足のいくものが
見つからなかったので。
それらはまたの機会にして、
今回は手持ちの
中から選びました。」

「手持ち?」

男性の朔夜が、
女性用のブローチを
どうして持って
いるのか、と疑問が浮かぶ。

それに気付いたのか、
朔夜が懐かしそうな
笑みで答えた。

「チェーニにある
僕の実家には、
ライラックの花の
庭があるんですが、
なかなか五枚のものは
見かけなくてね。
どうしても見つけられないと
ぼやいた母のために、
父がわざわざ
作らせたものなんです。」


…それはつまり…
お母様の、形見…?



「…あの、朔夜様…。」

「なんです?」

「これは…朔夜様の、
大事なものでしょう?」

「ええ。」

「だったら、わたし、
貰えない…。」

「なぜです?」


…なぜって。


そんな大事な物を
沙羅が貰ったら、
朔夜は困らないの
だろうか。

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