猫と生きる
気がつくと、あの灰色の猫は消えていた。
「いつか、アキハ君は知ると思ってた。」
雪見さんの声がした。
「騙してごめんなさい。」
「雪見さん…?」
雪見さんは目を覚ましていた。
「私はずっと眠ってた。でも、ちゃんとアキハ君の声聞こえてたよ。」
雪見さんが笑顔を見せる。
壊れてしまいそうな笑顔だった。
「アキハ君、私を助けてくれてありがとう。」
「雪見さ…」
「知ってるでしょ?私の名前は雪見日菜子じゃない。」
雪見さんは俺の言葉を遮り、はっきりとそう言った。
「私は露木冬。」
露木冬…俺は確かにその名前を知っていた。
10年前、俺の家の斜め前の家に住んでいた同じ年の女の子。
いつも寂しそうで、なんだか放っておけなかった。
だから10年前、俺は彼女に話しかけた。
そして、名前を聞いたのだ。