猫と生きる
穏やかな表情をしていた。
彼女はやっと解放されたんだ。
でも俺の姿を見るたび、きっとまた10年前を思い出し彼女は苦しむんだろう。
でも…
「俺は生きていて欲しい。」
「え…?」
わがままかもしれない。
露木さんをさらに苦しめるかもしれない。
だけど、10年前初めて彼女を見たときに、俺は思ったのだ。
彼女をもっと知りたいと。
だからあの時俺は彼女に声を掛けたのだ。
いつも1人で、悲しげな彼女を放っておけなくて。
そして、その彼女にどこか自分に似たところを見つけて。
思えば、雪見日菜子として初めて会った時も、彼女にどこか親近感を抱いたのだ。
初めて会った気がしなかった。
露木さんはじっと俺を見ていた。
「一緒に生きよう。」
彼女の目から一つ、二つ、涙が伝って床に落ちていく。
「俺を見ると、昔のことを思い出してつらいなら、俺に会わなくていい。でも、生きて欲しい。」
「アキハ君…」
露木さんは涙を拭った。
「生きたい…」
彼女はか細い声で、しかしはっきりとそう言った。