猫と生きる
こうして、俺の夢のような現実である日常の一つは幕を閉じたのである。
納得できない、雪見さんという疑問を残したまま。
「アキハー。」
「なんだよ。」
「おまえはどうして、ねことはなせることをまわりのヒトにかくしてるんだ?」
のぶ代さんはじっと俺を見つめていた。
「猫と話せるなんて、気味が悪いんだよ。他の人にとっては。」
「ふーん。そういうものなのかー?」
「そういうものだよ。」
そうだ、そんなものだ。
智子のことだけじゃない。
猫と話せて得したことなんてないんだ。
そうだ…あの時だって…
思えば、俺が猫と話していたせいで…
父と母の言い争う声が聞こえた。
幼い俺は耳を塞いだ。
もう何も聞こえない。
聞こえない、聞こえない。
俺には何も聞こえない。
そう言い聞かせて。
逃げるように目を閉じて。
でも逃れることはできなくて、俺は家を飛び出した。