猫と生きる
ほんの少し外に出ただけだった。
ほんの少し、現実から遠ざかりたかっただけだった。
争いが収まったら、いつもの父と母が帰ってきたら帰るつもりだった。
でも、俺は帰れなかった。
家が静かになったのを確認し、家に戻った俺が見たものは、あまりにも悲しく、あまりにも残酷な「日常」の1部だった。
そして、俺は帰る場所を失ったのだ。
「アキハ。」
「なんだよ。」
「おまえはさ、たとえばわたしとはなせることとか…いろいろいやかもしれないけど。」
「……」
「わたしはいいとおもうよ。」
いつのまにかのぶ代さんは俺の隣にいた。
「わたしはおまえのムカシのことはしらないけれど、でもおまえのイマはしってる。」
のぶ代さんがゴロゴロと喉を鳴らし、顎を俺の膝の上に乗せる。
「たすけただろ、おまえのそのチカラが…たくさんのヒトをさー。」
俺はのぶ代さんの頭を撫でてやった。
のぶ代さんは静かに寝息を立てて眠り始めた。