猫と生きる
その数少ない客の1人に彼、吉田直也はいた。
ステージの途中で、一人また一人と客が去って行く中、彼だけが最前列で最後まで私の歌を聴いていた。
ステージが終わり、脇からステージを降りる途中、彼と目が合った。
「よかったよ、なっつん!!」
彼は笑顔で言った。
なんなのこいつ。
しかもなに、なっつんって。
勝手にあだ名つけるんじゃないわよ。
「でもあれだね、緊張しすぎ!もっとリラックスしたら?」
「……」
なによ、偉そうに。
余計なお世話よ。
私は彼を無視してステージから降り、楽屋へ帰った。
それから彼は幾度となく私の前に現れた。
どんな小さなイベントでも彼は来た。
ライブは常に最前列。
ライブ終わると必ずアドバイスを私に投げかける。
こうも毎回現れて、暇なのかしら。
彼の姿を見るたびに私はいつもそう思った。