猫と生きる
月元さんの家を出た私は、再びあのアパートへ向かっていた。
吉田直也のアパートだ。
アパートの前で立ち止まる。
どうして月元さんの家は普通に訪ねられたのに、吉田直也の家はこうも躊躇われるんだろう。
でも、月元さんと約束したし、行かなければならない。
私は意を決して、吉田直也の部屋の前まで来た。
あとはこのインターホンを鳴らすだけ。
「……」
鳴らせない。
なんなのだろう、この押すまでの大きな壁は。
別に、月元さんは今日中に行けとは言ってないし…強制とも言ってないし。
そもそも吉田直也はわざわざ私が会いに行かなくても向こうからストーカーのように追っかけてくるんだから…
インターホンに伸ばした手が徐々におりていく。
「にゃー!」
突然後ろからした声に驚いて振り向くと、そこには猫が5匹ほどいた。
また、引き寄せた…?
「にゃー、にゃー…」
猫たちはしきりに鳴き続ける。
「え、や、やめてよ!そんなに騒いだら…」
吉田直也にバレるじゃない!と、そう言おうとしたときには時すでに遅しで…
「なっつん?!」
背後からする男の人の声。
「なっつんじゃん?!どうしてここへ…?」
振り返ると、スウェット姿の彼がドアを開けて立っていた。
「えっと…」
猫たちはいつの間にか消えている。