捨てる恋愛あれば、拾う恋愛あり。
*
坂道を登って、登って、どこかに車が止まった。
窓の外は真っ暗で、遠くに街のキラキラとした光が見えるだけ。
山にでも登っている感じがしていたけど……一体、ここはどこなんだろう?
かちゃりと惣介さんがシートベルトを外す音が静かな車内に響き、惣介さんが後部座席から何か袋を取り出した。
「琴音さん、これ、つけてください」
「え?」
「外は寒いですから。マフラーです。洗ったばかりで綺麗ですから安心してください」
「あ、は、はい……」
私にぐいっと押し付けるように惣介さんが私に渡してきたものは、ふかふかのマフラー。
……あの柔軟剤のいい香りがするマフラーだ。
……私は惣介さんのことを諦めると決めたその日から、惣介さんから受け取った洗剤も柔軟剤も使わないようにしていた。
……あの香りに包まれると、惣介さんのことを思い出してしまうから。
でも今は仕方ない、よね。と私は受け取ったマフラーを首に巻く。
私の鼻をくすぐったその香りは、やっぱり私の胸をきゅっと締め付けた。
無意識に目線を下げてしまう。
「ちゃんと温かくしてくださいね?風邪引かれたら困りますから」
「っ!」
私に伸びてきた大きな手にビクッと身体を震わせてしまったけど、その手は気にする様子もなく、ちゃんと巻かれているかを確認するようにマフラーをぽんぽんと叩いた。
「うん。大丈夫ですね。じゃあ、外行きましょう」
「……はい」
あっけなくするりと離れた手はそのまま車のドアを開けて、外に出て行ってしまう。
惣介さんの心が全く読めなくて、ふぅと息をついた私は、それに続いて外に出る。