捨てる恋愛あれば、拾う恋愛あり。
 



偶然なんて、やっぱりなかった。


小会議室のドアをノックして部屋の中に入った時に目に入ってきた人たちの中には、惣介さんの姿はなく。

少し残念だと思うのと同時に、正直ホッとした。

もし惣介さんがいたら、私はさらに緊張してしまって説明もしどろもどろになっていただろうから。


フライヤーの説明を無事に終え、大仕事を終えた気分のまま、小会議室を出てエレベータを待っていると。

チーンという音と同時に開いたエレベータからスーツ姿の男性が出てきた。

まさか人が乗っていると思わなかった私は驚いて一歩下がってしまった。


「!」

「あ、すみません」

「えっ?」


まさかと思った。

……その声が惣介さんとそっくりだったから。

私ははっと顔を上げた。


「……」

「?……何か?」

「あっ、いえ!失礼しました!こっ、こんにちは!」

「いえ。こんにちは」


男性がにこっと笑いかけてくれる。

でも、私の目に写るのは惣介さんではない。

その人はメガネもかけていないし、声を始め、背格好やその笑った口元は似てる気がするけど、きっと他人のそら似ってやつだ。

だって、雰囲気が惣介さんとはかけ離れているから。

惣介さんが暗だとしたら、この人は明。

社内では一度も見たことないし、社外の人だろう。

……声を聞き間違えるなんて、私の頭の中って惣介さんのことでいっぱいすぎる……。

 
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