捨てる恋愛あれば、拾う恋愛あり。
「年も年ですし。そろそろ身を固めてもいいかなと思って、部長……坂本さんの話を受けたんです」
「は、はぁ……」
「横山さんと話すのは楽しいと思いましたし、嫌な感じも全くしなかった。何より食の好みが合うのは素晴らしいことだと。だから、俺は横山さんとこのまま結婚前提に付き合っていければと思ってます」
「……」
真っ直ぐと私を見てくるその光を吸収してしまうほどの黒い瞳に、私は囚われてしまう。
……どうしよう。
完全に断られる方に思考が進んでいたのもあって、私は何も答えられない。
しかも、私なんかを結婚相手に選ぶ人はいないだろうと思っていたし、まさかこんなにすんなりと話が進んでしまうなんて。
お見合いは全然軽いものじゃなかった。
お見合いをしてもいいのかと悩んだとは言え、心の何処かではこっちに話が進むことをあまり真剣に考えていなかったのかもしれない。
だって、いざ“結婚前提に”なんて言われても、何の反応もできないんだから。
結局は“相手がいいと言うなら、私は見合いを受ける”と言ったのも、口だけだったんだと今更気付いた。
きっと断られるだろう、何とかなるだろう、という私の雰囲気で考えてしまった気持ちが引き起こしたこと。
「……横山さんはどうですか?俺と結婚するという選択肢は考えられませんか?」
「っ!」
……私は何も、答えられない。
私のせいで、私と三浦さんとの間に沈黙が生まれる。
さっきまでの穏やかな雰囲気が全くなくなってしまった。
ぴりっと張り詰めた空気を感じる。
……バカだ、私。
ちゃんと考えて、答えを出さなきゃいけない。