捨てる恋愛あれば、拾う恋愛あり。
 
***


……無性に惣介さんを感じたくなった私は、ある日の仕事帰り、ふらふらと柚ヶ丘駅で降り、惣介さんと何度か来た公園に来ていた。

もう辺りは暗くて、頼りになるのは電灯や自販機の明かりだけ。

刺すような冷たさの風が吹く時期ともあって、人の姿は全く見当たらない。

吐く息は白くて、前が見えなくなるくらいだ。

一人でいる公園はすごく寒くて、辛くて、ただ寂しいだけだった。

……隣に惣介さんがいない。

たった一人の人がいないだけで、私の心の中にぽっかりと穴が開く。

惣介さんと一緒に過ごした日々が夢だったみたいに感じてしまう。

ひゅう、と公園内を冷たい風が吹き荒れる。


「っ、さむ……っ!」


身体を縮こまらせる。

いつだったか、こんなふうに冷たい風が吹いた時、惣介さんにぎゅっと抱き締められたっけ。

あの時はすごく温かくて、幸せだった。

……でも、もう、あの温もりを感じることができなくなるかもしれないんだ……。

一つ気付けば、その分、心が寒くなった。


「はぁ……」


ため息は空に消えていくけど、私のこの寂しい気持ちは消えていかない。

むしろ、強くなる。

惣介さんを感じるどころか、空しくなるだけだと気付いた私は、公園に来てから5分も経たないうちに座っていたベンチから腰を上げた。


「帰ろう……」


……そう呟いた、その時だった。

 
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