捨てる恋愛あれば、拾う恋愛あり。
コンコンっ。
「っ!」
車の助手席の窓を遠慮がちに叩く音が耳に入ってきて、俺はビクッとその方向に顔を向けた。
……窓の外に登場したのは、まさに俺を悩ませている当人である彼女……琴音さんだ。
笑顔で俺に向かって手を小さく振っている。
……ダメだ。
とりあえず……悩むのは止めにしよう。
……よし。
俺は顔に出さないようにふぅと小さく息をつき、外にいる琴音さんににっこりと笑い掛け、入っておいで、と手を上下に振る。
すると、彼女は満面の笑みを浮かべて助手席のドアを開け、しんとしていた車内に明るい声をもたらした。
「惣介さん!こんにちは!」
「琴音さん、こんにちは」
「いつも迎えに来てくださって、ありがとうございます!」
「いえ。外は寒いですからね。さ、早く乗ってください」
「あっ、はい!」
琴音さんがいつものように助手席に乗り込んだのと同時にふわりと香ってきたのは、俺と同じ香り。
この瞬間、俺はいつも安心する。
……今日も俺と同じ香りを纏ってくれているんだって。
この香りは、琴音さんは俺のものだという一種の独占欲……マーキングってやつだ。