捨てる恋愛あれば、拾う恋愛あり。
「言ったでしょう?俺は料理するのが好きですし、何も気にする必要はありませんよ?あ、それとも実は琴音さんが作りたい、というフリですか?俺は大歓迎ですけど」
「う……、ち、違います!私の料理は……も、もう少しお待ちください…………あの、べ、勉強中ですので」
もごもごと照れ臭そうに言う琴音さんに、俺は目を見開いてしまう。
……それって。
もしかして……俺のために?
いや、でも……俺の都合が良すぎる勝手な自惚れの可能性もある。
……どうなんだろうか?
どうにもこうにもウズウズと気になってしまって、俺は恥をかくのを承知で訊くことを決意する。
「……こ、琴音さん。」
「は、はいっ?」
「……自惚れかもしれませんけど……もしかして、俺のために?」
「っ!……え、えっと……」
「……」
答えにくそうにする琴音さんの表情をじっと見る。
……冷静なふりを装うけど、俺の心臓はバクバクと早鐘を打っていて、今にも飛び出してしまいそうだ。
……どんな答えが返ってくる?
ちらっと少し居心地が悪そうに目線を上げた琴音さんと目が合い、それを合図に琴音さんの口がゆっくりと開いた。
「……あ、当たり前です。だって……他に誰がいるんですか?」
「!!ほっ、本当ですかっ!?それはすごく楽しみです!!!すごく嬉しいですっ!」
まさか本当に俺のために料理を練習してくれているとは思わなかった俺は、その場で飛び跳ねるくらいの勢いで喜んでしまう。
それに反して、琴音さんは慌てた様子で口を開いた。
「あっ、ちょ、ちょっと、待ってください!楽しみにしなくて大丈夫ですからっ!期待されると困ります!」
「いえっ、楽しみにしておきます!」
「だっ、ダメですって!」
「いや~本当に嬉しいですっ」
「惣介さんってば!ダメですってば!ダメ、むっ」
琴音さんの口から連発される何度目かの「ダメ」という言葉に、俺は琴音さんの唇に人差し指で軽く触れた。
ほんのりピンクに艶めくリップグロスが取れないように。
自分でしておきながら、その柔らかさにドキッと心臓が跳ねてしまう。
それを悟られまいと俺はそっと琴音さんから指を離す。