捨てる恋愛あれば、拾う恋愛あり。
 

「……今日は“ダメ”は禁止ですよ?この前、約束したでしょう?今年分の“ダメ”は使いきったから、もう口にしちゃダメだって。それに今日は特別な日なんですから」

「う……っ、あれ、本気だったんですか?」

「もちろん。だから……、いろいろ覚悟しててくださいね?」

「な……っ」


にっこりと笑う俺の言葉に何も反応できず、パクパクと琴音さんは口を開閉する。

桃色に染まった頬がたまらなくかわいい。

……触れたくなるけど、今は我慢だ。

耐えろ、俺。


「くくっ、じゃあ出発しましょうか」

「は、はい……」


琴音さんの拗ねたような納得のいかないような表情に、俺は機嫌を直してもらおうと琴音さんの頭をぽんぽんと撫でる。

すると、琴音さんは口を尖らせて「もう、ズルいです……」と呟いた後、少し恥ずかしそうにニコッと笑ってくれた。

その笑顔に俺の心臓はどきりと跳ねたけど、冷静なふりをして車を発進させた。

俺らの関係が“恋人”というものに変わった今でも、相変わらず琴音さんは俺を振り回す名人だ。

 
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