捨てる恋愛あれば、拾う恋愛あり。
デートをするごとに俺の琴音さんへの気持ちは高まり、一気に琴音さんのことを好きになっていった。
……何度、その手を握りしめようと思ったかわからない。
……何度、その唇に、肌に触れたいと思ったかわからない。
恋愛はそれなりにしてきたつもりだったのに、琴音さんにはこれまでの人生で殆ど感じたことのない気持ちが溢れてくる。
愛しい、触れたい、……全てが欲しい。
そんな気持ちを抑えるのに、俺は必死だった。
そんな日々を1ヶ月ほど続けた辺り……琴音さんも俺のことを少なからず好きでいてくれるんじゃないか?と自惚れ始めた頃から、琴音さんの俺に対する様子が明らかに変わった。
俺を避けるような態度が頻繁に見られるようになったんだ。
いきなりだったし理由もわからなくて困惑したけど、その理由を聞く勇気なんて俺は持っていなかった。
ある日、琴音さんの心の中を探るために、わざと“恋愛と結婚は別の方がいいのかもしれない”と言ってみた。
……“そんなことない”という答えを期待して。
でも、琴音さんから出てきた言葉は“傷付くのは嫌だから別がいい”だった。
その瞬間、俺は琴音さんにとって恋愛対象にはならないんだと確信してしまった。
避けるような態度を考えると、嫌われているのかもしれないと思ったし、今までの経験からして、きっと俺なんかと一緒に居ても面白くないんだと思われているんだろうという結論に達してしまって、ドン底に突き落とされた気がした。
真実はわからなかったけど、結局素顔を見せようと見せまいと、俺のこの性格を受け入れてくれる人間はどこにもいないんだ……。
あんなに楽しかった日々が、苦しさでいっぱいになっていく。
何度もこの出逢いをなかったことにして琴音さんのことを諦めようとした。
……でもふとした時に頭の中に浮かぶのは、柔らかく笑う琴音さんの顔や、おっとりとしているのにころころと表情を変えて俺の心を振り回す琴音さんのことだった。
俺の心の中は琴音さんでいっぱいで、その時はすでに、俺はもう琴音さんのことを離したくないと思っていたんだ。
……その笑顔が近くで見れるなら、どう思われていようと構わない。
ただそばにいたい。
だから、俺は琴音さんの気持ちに気付いていないふりをすることにした。
このまま知らないふりをすれば、琴音さんのことを手に入れることができる。
……ズルい考えの俺。