捨てる恋愛あれば、拾う恋愛あり。
「いえ。……緑、綺麗ですよね。見とれる気持ち、わかりますよ」
「!」
その男の人は口元に笑みを浮かべ、カフェの外の緑を眩しそうに見つめる。
笑顔だけど、大きめのフレームの黒縁メガネと少し長めの癖のある髪の毛で顔に陰を落としてしまっているせいか、その表情は少し暗い印象を受けた。
でも、びしっと決めたスーツ姿はすごく似合っているし、着慣れている印象を受ける。
黒っぽいネクタイだし、結婚式に来たってわけではなさそうだ。
……もしかしたら、私と同じ“用事”で来たのかもしれない。
何かこの人、雰囲気いいかも。
黒縁メガネ、スーツと、私が好きなものが揃っているからかもしれないけど。
その容姿はたぶんカッコいいわけではなさそうだけど、何かその雰囲気に目を引かれる。
……っていうか、まさか……“相手”、ではないよね?
……いや、そんな偶然はさすがにないか。
つい、ぼんやりとその人のことを見てしまっていると、私の視線に気付いたのか、ふと男の人の目線が私に移った。
黒縁メガネの向こうにある黒い瞳が私を捕らえた瞬間、カフェの入り口から聞き慣れた叔母の声が耳に入ってきた。
「琴音(ことね)っ!?何してるのっ?そろそろ時間だから早く来なさい!」
「!あっ、はい!あのっ、本当にすみませんでした!」
私は男の人にぺこっと頭を下げて、叔母のいる方向に履き慣れないヒールのある靴で転けないように向かった。