ロフトの上の冷たい毒 星のない漆黒の空の下
人事を担当する尾木は、いかにも小狡そうな目が特徴的だった。

しかも、会話をするとそのエゴイストぶりにガッカリさせられた。


それでも、『若い』というそれだけの理由で、尾木は唐沢達也と社内の人気を二分していた。


『パートさん』達の勤怠を管理する立場にある尾木は、過去に何度かパート主婦との噂が立ったことがあった。



ーー水村さんは、唐沢さん派でしょ?
尾木さんだと若過ぎちゃうものね?


私が入社したばかりの頃、古株のパートタイマー 江頭和子がズケズケと言った。

周りにいた者がクスクスと笑う。


デリカシーの欠片もない言葉に一瞬、はらわたが煮え繰り返ったけれど、決して顔に出したりしてはいけない。


ーーそうですね…
私はやっぱり唐沢さんですかねえ?


明るく答える。

既に30歳をとうに過ぎた私は、その位の機知を身につけていた。



唐沢達也。

私より9歳年上で現在45歳の彼は、年齢が醸し出すいい意味で、『枯れた』男だった。





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