ロフトの上の冷たい毒 星のない漆黒の空の下
達也の若くして死んだ妻。
彼女の名は「けいこ」と言う。
どんな漢字を当てるのかは知らない。
卵型のフェイスラインの、目鼻立ちの整った女性。
小ぶりの白い花のコサージュを結い上げた髪に挿し、真っ直ぐな目で、こちらを見ている。
目の覚めるようなサファイアブルーの着物に身を包んだ20歳の「けいこ」の写真を彼は、今でも後生大事に持ち歩いている。
私と深い仲になってからは、さすがに鞄の奥深くに忍ばせるようになったけれど。
けいこの面影が、私を深い絶望に追いやることになるとは、夢にも思わなかった。
ーー奥様の写真て、ないんですか?
5年前、私は尋ねてしまった。
おでん屋のカウンター席で、無邪気に。
その時、私は達也と二人きりで、なんとなく話題に詰まってしまい、そんな特段興味もない質問をした。