ロフトの上の冷たい毒 星のない漆黒の空の下
言葉にした後、しまった、と思った。

ひとつ間違えば、相手の古傷をえぐってしまい兼ねないのに。


ーーあ、写真、ありますよ。


達也は、ニッコリと笑い、ジャケットの内ポケットから、黒い皮革の定期入れを取り出した。

私は、興味だけでそんなことを訊いてしまったことを恥じた。



初めて唐沢達也と二人きりで飲みに行ったのは、偶然の成り行きだった。


5年前の営業物流課の忘年会。

出席予定は私の他に、5人の男性社員。
30代が2人。
50代が2人。そして、ボスの40歳の達也。


皆、外回りの仕事だから、自分のデスクに座っている時間は、日報を提出する為に夕方帰社してから退社するまでのわずかな時間しかない。

直行直帰する者もいて、全員が揃うことなどない。


てんでバラバラの性格、会社から営業成績を競わされている男達は暑気払いと忘年会以外には、一緒に飲みに行くこともなかった。


表向きは、割と和気あいあいとしていたけれど。


その日、4人の彼の部下達は、いっせいにそれぞれ所用が出来たと言い出して、忘年会をキャンセルしたのだ。




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