ロフトの上の冷たい毒 星のない漆黒の空の下


無理もない。
その日は12月24日。


家族や恋人がいるものなら、そちらを優先するのが当たり前だ。


ーーやっぱり、まずかったよなあ。
でも、この日しか予約が取れなかったんだよ。
皆に訊いたら、クリスマスなんて関係ないから、いいですよ、って言ってたんだけど…



きっと、彼らは、24日に一緒に過ごせないことを、家族や彼女に非難され、土壇場で方向転換するという選択をしたのだろう。


ーー私は、大丈夫ですよ。


笑顔で私はそう言った。
帰っても、もう誰も待つものはいないから。



クリスマス・イブ


そんな特別な日に妻に先立たれた男と、恋愛経験に乏しい独身女が、古びたおでん屋の暖簾をくぐることになった。



ーーやっぱり、おでんには、日本酒だよなあ。水村さん、いけるクチ?


柔らかな湯気の向こうで、達也はそう言って私に小さな盃を寄越した。


こじんまりとした店。

二人で大きなテーブルを占拠するのは、悪いから、カウンター席にしてもらった。



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