ロフトの上の冷たい毒 星のない漆黒の空の下


達也は、私にはもったいないような男だ。快活で、優しくて。

色黒で、スタイルが良くて、童顔で。


いつでも私を大切に扱ってくれた。


5年前の、クリスマスイブの出来事を語る度に彼は私に謝る。


「よしみ、気が付いたら寝ちゃっててさ。悪いなって思ったけど、本当に可愛かったから、中断出来なかったんだよ、ごめんね」


私はいいの、と俯く。


あまりあの時のことは、思い出したくなかった。


職場の上司を一人暮らしの部屋に呼び、酔った勢いで関係を持ってしまう。


どちらも独身とはいえ、ひとつ間違えば、大変なことになる。
常識ある社会人として慎まなければならない行為だろう。


そしてーー


そんなことよりも、私を苦しめるあの日の残像………

おでん屋で見た青い着物を着た20歳の
『けいこ』


私にはない、美しい面影。
華のような佇まい。





私が若い頃、男が苦手だったのは、二人の男が原因だ。

……1人は私の父。




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