ロフトの上の冷たい毒 星のない漆黒の空の下
傷
中小企業に務める、平凡な男。
今考えるとプレッシャーのある持ち場だったとか、役付きだったとか、そんなわけでもないと思うのだけれど。
父は、気弱な男だった。
不器用で、臆病で。
そんなところは私にも遺伝している。
そして、父よりもさらに不器用で臆病な私の母。
普段は大人しい父だけれど、小さなきっかけで度々、母を怒鳴りつけ急須や茶碗を投げつけた。
時には、小柄な母の顔面を平手で打ち、足蹴にした。
母が町内会の側溝清掃に行くのを忘れてしまったとか、
自分の母である義母に対して、不義理であるとかそんな理由で。
(本当の理由は、会社で嫌な事があり、その鬱憤を晴らしたいだけなのだ)
それは、私達姉妹が寝てから深夜に起こる事件で、5歳年下の妹は全く気付いていなかった。
パジャマ姿の私だけが、襖の隙間から、ほの暗いサークルライトの下で繰り広げられる悲しい場面を見ていた。