ロフトの上の冷たい毒 星のない漆黒の空の下
私と同じ営業課の伊藤という39歳の男が一瞬、羅夢の方を向き、そして、私に苦笑した顔をみせる。
(なんだよ、あれ?)
という風に。
(なんなんでしょうね?)
私も口だけで笑ってみせ、それに応える。
いつもの事なのに、場違過ぎるキャピキャビとした声に、油断しているとつい、驚いてしまうのだ。
しかし、あの日以来、私にとって耳障りでしかないものになった。
あの声で、達也に縋りつき、関係したというのか……
「水村さん、大丈夫?」
ふいに肩を叩かれ、私は「ハッ…!」と飛び上がるほど驚いた。
「…あ、江頭さん。すいません」
オーバーなリアクションで振り向いた私に江頭は、ホホッと声を立てて笑う。
「いやあねえ。ぼ〜っとしちゃって。
寝不足?どうかしたの?」
私は、事なかれ主義を貫こうとしているのに。
この頃、やたら江頭の視線を感じるようになっていた。