ロフトの上の冷たい毒 星のない漆黒の空の下


新しいパートさんは、たいがい私が36歳だと知ると、意外そうな顔をした。


「20代だとばかり思っていた」などと言って。
次に未婚だと知ると気の毒そうな顔をする。

そして、私は勝手に「仕事が生き甲斐の女」にされてしまう。


子持ちの既婚女が圧倒的に多いこの職場で、笹木羅夢の若さと自由さは、確かに光り輝いていた。


……私には、関係ないことだけれど。




ーー今週の金曜日、会社帰りにスパ『サリア』に行きません?


三日前、社屋のエレベーターの中で二人きりになった時、羅夢は誘ってきた。


ーーえっ?


ーー駅前の南口に新しく出来たんです。先週、友達が行って、すごく良かったって。
エスニックレストランとか居酒屋もあるんですよ。



スパ、というところに私は行ったことがなかった。
スーパー銭湯より洗練された入浴施設だという認識しかない。


ーースパってどんなところなの?


私の問いに、羅夢の眉が一緒、卑しく歪んだのを私は見逃さなかった。


……その歳でスパも知らないなんて。
なんの楽しみもないんじゃない?


そう思われても仕方ない。

私は新しい場所に行きたいとは考えない人間なのだから。


誘われて始めて、その場所に興味を持つ。






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