水のない水槽
呟くように零れてきたその言葉は、まるでため息のようで。

わたしはまた、ためらってしまう。

この人をこれ以上、好きになってはいけないと。

そんなわたしに気付いた様子もなく、先輩はさらに話し掛けてきた。


「雪乃、元気??」


――チクン。


胸の奥が痛みを訴える。3年前の傷口が、ジワリと広がるのがわかった。


「元気ですよ~。先輩、会ってないんですかぁ??」


言ってはいけない。


「今日も浴衣着て、バタバタと出ていきましたよ。ヒロくんとデートだって言って」


傷付けてしまう――大好きなこの人を。


「毎日、ラブラブなんですよ~。もうやんなっちゃう」

「そっか…」


でも、どうかせめて、気付かないで。どす黒い、わたしの中のこの残酷な気持ちに。


「そっか……元気ならいいんだ」


さっきまでは笑顔だった、先輩の表情が微かに歪む。苦しげに、切なげに眉を寄せて。

こんな苦しげな表情にさえ、ドキドキしてしまうわたしは、相当、重症だ。

先輩がわたしを通して、お姉ちゃんを見ているのがわかっても、止められないんだから。
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