水のない水槽
それからのコトは……あんまりよく覚えていない。


先輩たちと落ち合って、みんなで記念写真を撮って――……。


ただただその場に合わせただけ。


何を食べて、何を飲んだのか。そんなコトさえ、わかってなくて。


あんなに楽しみにしていた花火も、先輩と過ごす時間も、ぼんやりと霧がかかった風景のようにしか見えなかった。


――キノシタ、木下……。


このメンバーで唯一、わたしを名字で呼ぶ人。


朔でも、朔乃でも、朔乃ちゃんでもなく、他人行儀に呼ぶこの声。


手にした缶の中身をゴクリと飲んだ。


頭がなんだかフラフラして、打ち上がる花火が滲んで見える。


――気持ち悪いのか?


その言葉が引き金になって、堪えていた涙が一気に溢れだした。


「大丈夫っっっ!?」


まどかが慌てて飛んでくる。


「しょ~がないなぁ~、ヒロ…」


お姉ちゃんの少し呆れたような声も。


「いいよ、俺が送ってく」


ぶっきらぼうな先輩の声も。


――え…? オレガオクッテク??
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