水のない水槽
その言葉に驚いて、霧がかっていた風景が、現実感を取り戻した。


「えーいいよ~。ほら、いちお、姉なワケだし。ヒロもいるしさ」

「そうそう、遠藤、最後まで見てけよ」


ヒロくんがお姉ちゃんを援護して。


「あーでも、俺、この後、ちょっとあるからさ。雪乃ん家なら途中だから」

「うーん…んじゃ頼んでいい? お母さんには連絡しておくから」


そういうとお姉ちゃんが早速、家に電話をかけ始める。


「あ、もしもし、お母さん? 実は……」


手の中の缶が引き抜かれ、変わりに冷たいペットボトルが手渡された。


「…酔ってるんじゃないのに……」


声にするつもりのなかった呟きは、目の前の先輩にバッチリ聞かれていたようで。


「酔ってるコトにしとけ」


その言葉と共に、レジャーシートからわたしの身体が浮上がる。


高くなった視線の先に見えたのは、大きな大きな打ち上げ花火。


「んじゃ、俺、行くわ」

「おーまたな」

「朔~、気をつけてね」

「遠藤、お願いね~」


それぞれの言葉に背を向けて、先輩が駅へと歩き出した。
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