水のない水槽
駅前に出た先輩は、タクシーを停めた。


「ほら、行くぞ」


まだ少しフラフラしているわたしの手を握ると、車に乗り込む。


「S町の図書館の辺りまで」


大したことではないけれど、スラスラとタクシーに指示する先輩が大人の男の人に見えた。


「すみませんでした。一緒に帰ってもらっちゃって」


さっきから言いそびれていた言葉を口にする。


「気にすんなよ。俺も帰りたかったからさ」


花火を見ている間、ずっと気になっていたコト。それは……


「やっぱり…嫌でしたか? お姉ちゃんたち、一緒なの」

「まだそんなコト、言ってんの? 木下は思い込みが強いなぁ」

「でも……」

「木下こそ、ヒロと一緒なのが嫌だったんだろ??」


え?? なんでヒロくんが関係してくるの?


あまりに意外な言葉に思考がフリーズする。


「いつから? ヒロのこと、好きなんだろ??」
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