水のない水槽
「まぁ…木下が決めることだから、口出さないけど、なんかあったら連絡しろよ」


手にした携帯をこっちに向けた。


「赤外線送信? 受信??」

「え、あ、じゃあ送信で…」

「あと言っとくけど、雪乃のはホントに木下の誤解だから」


そう言うと先輩は真っ正面から、わたしを見つめた。


「しんどい恋、するなよな。木下は大事な……後輩なんだからさ」

「は……い」


ホッとしたような、寂しいような――…不思議な感覚だった。


お酒を飲んだからかな??


妙にココロがふわふわする。いつもはクールな先輩の瞳が、すごく優しく見えたんだ。


あとはお互い、行きと同じように黙ったまま。


だけど、全然、空気が違う。


温かいモノに包まれているような、居心地のいい空間。


望みがないと思っていた恋に、一筋の光が見えたような気がした。
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