水のない水槽
「あ、スミマセン!! そこのコンビニでちょっと停めて」


窓の外をぼぉっと眺めてたら、先輩がいきなりタクシーを停めた。

「なんか飲む?」


あまりに突然で、頭がついていかなくて、口だけがパクパクしちゃってて。


は、恥ずかしい…。


ただでさえ、ちょっと顔が暑いのに、さらに顔が暑くなる。


「ん? もしかしてホントは酔ってる??」

「あ、それは平気…」


正直、酔ってるかどうか、わかんないって言うのが本音なんだけど……こういう時になんて答えたらいいのか、わからない。


「んじゃテキトーに買ってくる」


そう言い残して、先輩はコンビニに入っていった。


「ラブラブですねぇ」


運転手さんがいきなりワケのわかんないことを話し始めた。


「ボクもね~昔は彼氏みたいにスマートだったんだけどね~」


がははっと笑いながら、運転手さんが言った。


「いえ、先輩なんで……」


彼氏だったら嬉しいけど。今日の視線を見てたら、お姉ちゃんを好きなのが、丸わかりで。


さっきのダメ押しみたいに言われた言葉が、今さらながら胸にしみる。


「…辛いです……」


初めて会った人なのに、思わず言葉が漏れる。
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