彼は私を狂愛した。

「んっ...」



慧兒がゆっくりと目を開ける。


そして私のことをじっと見つめ



すごく切なそうな表情をした。




「...おかえり。魅音」



そう言って私の頬を撫でる。



「...慧兒?」



慧兒の目はとても優しくて



だけどどこか切なそうで...。




私を優しく抱きしめた。



「...ごめん。ごめん...!本当にごめん...」



慧兒が私の肩に大量の涙を流しながら必死に謝る。



なんで...?



「...けい...じ...」




「...俺、最低なことした。魅音の兄貴殺した...
 

俺、あの後すぐ我に返って気づいた。
 

あぁ、俺、なんでこんなことしたんだろうって...


こんなことしても魅音が悲しむだけなのに


俺、魅音が走っていった後、すぐ兄貴抱え上げて病院に行った。


手遅れだって分かっているのに。


でも...止められなかった。


病院には事故死って事になって...


俺、もっとどうしたらいいか分からなくなって


どうにも出来なかった...


殺したのは俺...俺...俺なのに...


誰にも罪はないのに...!!


う、うわぁあああああぁあぁぁぁあああああああああああ」



慧兒が早口で必死に話した後、狂ったように泣き叫んだ。



「...え...あ...」



どうすることも出来ない。



「お、俺、魅音の兄貴...うっああああ...」



「...謝んないでよ」




私は慧兒の胸を押し



真顔で言った。



「...謝ったって、お兄ちゃんはもう戻ってこないの...!
 だからもう...やめてよ...!!」




言った瞬間涙が止まらなくなった。



「うっ...あああ...ヒック...」




「魅音...俺






 シヌ」





慧兒がテーブルに置いてあったナイフを手にとった。




そして自分の胸に突き刺そうとしている。




「やめて...!!」



慧兒が胸を突き刺す寸前に私はナイフを止めた。




ポタポタ...



手から血が流れる。



「離せよ...離せよ...離してくれよおおお!!」



慧兒はグッとナイフを持っていた手に力を加える。



それと同時に私の手から血が床に滴る。







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