キコエル?
タイトル未編集
月城愛音

名前の通り、音を愛し、音に愛される少女。14歳とは思えない歌唱力と作詞・作曲能力。それから、愛らしいルックス。彼女はデビューこそしてはいないものの、インターネット上に定期的にあげる『歌』で人々を魅了していた。

しかし



愛音は歌が上手いと言ってもただの田舎の女この子で、普通に中学校に通い、忙しい毎日を過ごしているのだ。

気まぐれで、
歌うのが好きで、
そんなごく普通の女の子だった。




彼女がインターネットに歌をupすると15分でそのサイトがパンクするほどたくさんの人が聞きに来る。好きな歌の曲を歌ったものや、自分で作った曲を歌ったものなど様々な『音』を紡いでいた。彼女のファンが勝手に作ったサイトに今日も書き込みが続く。


無題【愛音ちゃん好きー♡】
今日upした曲聞いた!?実際の曲より好きかも!

>無題【マキ】
聞いた聞いた!マジいいよね、本当に14歳なのかな?

>>無題【moon】
14才だろ。見た目的にも。あどけなさが残ってて可愛いんだよな

>>>無題【concerto☆】
何でデビューしないんだろうな。しててもおかしくない実力と見た目だし。100点越え!

>>>>無題【愛音ちゃん好きー♡】
ねー!ほんとに!
作詞・作曲もすごいし!

勿体ないなあ…(;´・ω・)

>>>>>無題【moon】
親に反対されてるとか。
あとは学校だろ。確かにデビューしてほしいけど。

>>>>>>無題【マキ】
やっぱそうなるかー!田舎だしね、愛音ちゃん。青森だっけ?

>>>>>>>無題【concerto☆】
秋田じゃないか?訛りがそんな感じだ。
でもさ、ブログくらいやってもいいのに。

>>>>>>>>無題【名前なし】
勝手に入るー(笑)
東北って事だけは分ってるけど、詳しくは分んないよね~
ブログもTwitterもFacebookもないよ。
何か不思議だよねー\(゜ロ\)(/ロ゜)/

>>>>>>>>>無題【マキ】
どうぞどうぞ。
確かに、東北って感じ。
でも仙台とか福嶋な感じはしないよね…!
SNSやってないのかぁー。人気出そうなのにね!

>>>>>>>>>>無題【愛音ちゃん好きー♡】
そうかも!秋田か、青森か、岩手かなあ??
まあ、いずれデビューしそうだよねっ☆
たのしみぃ(*´▽`*)




そんな愛音の書き込みサイトを見て少しため息をつき、開いていたスマホをベットに放り投げたのは愛音と同じクラスの野球部二年エース

皇紫苑。


紫苑は深くため息をついた。
(明日教えてやろう)
そう心の中で考えて、いつも通りのトレーニングをするために上着を着て部屋を出た。季節はもう、秋も深まるころである。



紫苑はいつも夜になると野球部のトレーニングの為に近くまで走る。二年エースの名を譲る気はないし、負けたくもない。
その一心でいつも通りにトレーニングにむかった。




紫苑がしばらく走り、息も少し切れてきたころ。目の前に3つの影が見えた。真ん中の影だけが大きくて、両隣の影はとても小さかった。3つの影は手をつないでいる。
紫苑が少し目を細めて、その影にむかって呟いた。

「愛音…?」

愛音、と呼ばれた影の主は長い髪をふわり、と揺らし紫苑の方を振り返った。

「紫苑」

美しく唇が動く。紫苑の名を呼んだということは、愛音で間違えない。そう紫苑は思った。そして愛音にむかって走り出した。

「なんでここにいるの?」

紫苑がそう問いながら聞いていた音楽プレーヤーのヘッドフォンを外した。愛音は小さく笑いながら言った。

「真依と、リュウがお散歩行きたいって言うから」

アイネと手をつないでいた二つの影の主は真依と呼ばれた女の子とリュウと呼ばれた男の子だった。どちらも5歳くらいの小さな子だった。

「紫苑お兄ちゃんだ!」
「兄ちゃんトレーニング?」
「そうだよ。散歩してたのか」

紫苑は二人の頭を荒々しくなでた。二人とも嬉しそうに大きな笑顔を見せた。

「二人がね、散歩行こうって言って聞かないから。まあ、宿題もちゃんと終わらせてたし、最近どこにも行けてなかったからいいかなーとおもって」

愛音もどこか楽しそうに微笑みながら言った。

「お前ら夜にあんまり出歩くなよな。危ないだろ?」
「なにがー?」

真依が愛音の手を握り、クルクルと回りながら言った。

「女と、子供って夜に危ないだろ?」
「そう?田舎だから大丈夫だよ」
「なわけねーだろ!」
「兄ちゃん、のどか湧いた!」

全くマイペースなリュウらしい。紫苑はリュウにむかって苦笑いで言った。

「金ねえよ」
「えー!」
「私あるよ。そこの公園いこう?紫苑にもおごってあげる」

愛音は言いつつ、二人の手を引いて歩き始めた。紫苑もゆっくりとその後に続く。


真依とリュウはオレンジジュースを選んだ。そんな二人を優しく見つめた後、愛音は紫苑を振り返った。どれがいい?と聞いた愛音に、『スポドリ』とだけ答えた。


「愛音お姉ちゃん、遊んできていい?」
「んー…、ブランコのトコならいいよ。見えるとこだけね!」
「うん!真依、行こう!!」
「うん」

真依とリュウがかけていくと、愛音は紫苑に言った。

「ベンチ、座ろ」

愛音と紫苑がベンチに座ると、星空の月明りが綺麗に見えた。まるで魔法みたいだ、と愛音は他人事のように考えていると紫苑が何かつぶやいた。

「なあ、志望校何処?」
「紫苑は?」

愛音は手の中にあるお茶のペットボトルを握りしめながら答えた。

「俺、悩んでる。お前どうすんの?」
「んー…。どうするんだろうね。紫苑三者面談で何か言われたの?」
「…野球の強豪校への進学を勧めるってさ。でも県外」
「…紫苑の家お金持ちだから大丈夫じゃない?」

愛音はヘラ、と笑って紫苑を見つめた。
ただでさえ白い肌が月明りによって雪の積もったように美しく映える。

「まあな…。お前は?」
「……音楽の勉強できるところ行けば?って言われたけどさ、あいにくそんなお金は無いし。皆の面倒も見ないといけないしね」
「…我慢しなくていいじゃん」
「しょうがないよ。何かを叶えるためだったら何かを我慢しないと」


そう、強く決意したように言い放つ愛音は美しかった。
誰も真似できないんだ、この強さは。
そう紫苑は心の中で呟いた。
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