沖田総司は恋をする
ここはどうしても譲れない。

断固として食い下がる僕に。

「沖田さん、いいですか?」

奈津美さんは説いて聞かせた。

「明治9年…沖田さんのいた時代からわずか数年後に、日本には廃刀令、という法律が定められたんです」

「廃刀令…?」

「はい。お侍さんの沖田さんには辛い話かもしれませんが…許可なく刀を持ち歩く事は禁じられたんです。それと同時に、武士という存在は日本からいなくなっていきました」

「な…!?」

武士が…いなくなった!?

「その法律は今も生きています。言い方こそ違いますけど、銃刀法といいまして…武器となるような刃物は、持ち歩く訳にはいかないんです」

「……」

愕然とする。

日本は…侍や刀までも否定してしまったのか…。

「沖田さん」

俯く僕に、奈津美さんは申し訳なさそうに言う。

「沖田さんが元の時代に帰る時には、必ずお返ししますから…その刀、預からせて頂く訳にはいきませんか…?」

…刀は侍の魂であり、命そのもの。

僕は自分の愛刀を、一度として他人に渡した事などなかった。

しかし。

「…僕は、奈津美さんを信用していますから」

僕ははじめて、愛刀を身につけないまま、外を出歩く事を覚悟した。

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