沖田総司は恋をする
街中を歩いていると、奇妙な光景を見かける。

時々、小さなものを耳に当てている人が、独り言を言っているのだ。

「…随分と大きな独り言を言うのですね、この時代の人々は」

僕が言うと、奈津美さんは、ああ、と声を上げる。

「独り言じゃありませんよ。あれは、携帯電話で話しているんです」

「けいたい…でんわ?」

また聞き慣れない言葉が出てきた。

「そうですね…離れた場所にいる人と話す機械です。私も持っていますよ。ほら」

そう言って、奈津美さんは懐から小さな機械を取り出した。

それは折り畳んであり、広げると硝子のような画面と、いくつもの突起がついていた。

「ちょっと試してみますか?沖田さんはここにいて下さい。もしこの携帯が鳴ったら、ここ…このボタンを押して、耳に当ててみてください」

「…?」

何がなんだかわからないまま、その、けいたい、を渡された。

奈津美さんは少し離れた場所にある、硝子張りの四角い箱の中に入っていった。

…しばらくして。

「うわっ」

けいたい、が鳴り始める。

なにやら耳につくような音楽が流れている。

僕は奈津美さんに言われた通りの場所を押し、耳に当ててみた。

すると。

「もしもし?」

「!?」

耳元で話しかけられたかのように、機械から奈津美さんの声が聞こえた。

あんなに離れた場所にいるのに、まるで隣で話しかけてきているかのように。

「驚きましたか?これが携帯電話です」

機械の中で、奈津美さんの笑う声がした。

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