沖田総司は恋をする
しばらくすると奈津美さんが僕の側に戻ってきた。

「便利でしょ?」

僕から、けいたい、を受け取り、ニコッと微笑む。

…僕はまだ驚きが冷めやらない。

「奈津美さん…貴女は妖術使いの類ですか…?」

「まさか。それを言ったらこの時代の人はみんな妖術使いですよ」

クスクスと奈津美さんは笑う。

「これも元々は、海外から入ってきた発明品なんです。鎖国が終わって以降、日本にはこういう発明品や文化がたくさん入ってきたんです」

「……」

鎖国が終わったのも、満更悪い事ばかりではなかったという事か…。

元々は火縄銃もよその国の文化だったというし…。








奈津美さんは、僕を港の方へと連れて行ってくれた。

「今では日本は、色んな国と貿易しているんです。たくさんの国から、たくさんの物が輸入され、日本からも色んな物を輸出しているんです」

「……」

残念ながら、奈津美さんの説明は耳に入っていなかった。

僕は港の光景に目を奪われていたからだ。

…黒船よりも大きいであろうと思われる鉄の船が、港狭しと入港してくる。

「…奈津美さん…あれは戦船(いくさぶね)…甲鉄艦ですか…?」

あの鉄の外観は、きっと装甲に違いない。

しかし。

「ああ、違いますよ。確かに鉄で出来ていますけど、あれは戦争の為の船じゃないです。この時代では、木造船の方が珍しいんです」

「そうなんですか…」

『泰平の 眠りを覚ます上嘉撰(じょうきせん) たった四杯(しはい)で 夜も眠れず』

僕らの時代では、黒船が来た時にそんな風に詠われ、恐れられたものだが。

近藤さんや土方さんがこの光景を見たら、驚くだろうな…。




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