沖田総司は恋をする
奈津美さんの言葉…そしてこの時代の在り方…。

それは、僕の時代の、あの男に似ていた。

…倒幕か佐幕かで日本中が揺れていた動乱の時代に、一人だけ世界に夢を馳せていたあの男。

飄々と時代を生き、『日本を変えねばいかんぜよ!』などと口癖のように繰り返していた、あの男に。

…悔しいが、あの男の考え方は間違っていなかったのかもしれない。

そして、この時代はまさしく、あの男の望んだ時代なのかもしれない。

「…ところで沖田さん」

奈津美さんが話題を変える。

「ここから見る景色、綺麗だと思いませんか?」

「え?」

僕は奈津美さんに言われて、改めて海の見える景色を見る。

…あちこちに人の手が加えられて人工的にはなったものの、潮風と、海の香りは今も昔も変わらない。

心和む、静かな風景だった。

「ここは、デートスポットとしても有名なんですよ?」

「…でぇとすぽっと?」

時々奈津美さんは、僕のわからない言葉を使う。

舶来語だろうか。

「ああ…わかんないか…そうだな…」

奈津美さんは、僕にもわかるように言い換える。

「逢引に、うってつけの場所、かな」

「あ、逢引…」

その言葉を聞いて、僕は顔が赤くなった。

と、という事は、ここにこうして二人きりで座っている僕と奈津美さんも、その…恋人同士に見えたりするという事なんだろうか…。

「というより」

奈津美さんはクスクス笑う。

「今日一日、二人きりで過ごしていたのも、他人から見れば逢引だったかもしれませんね」

「~~~~~っ」

僕は赤面が止まらず、奈津美さんの隣で俯いてしまった。

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