沖田総司は恋をする
「沖田さん」

落ち着いた、しかし緊張した声で奈津美さんが言う。

「正直なところ…私はその事を沖田さんにお話しするのは躊躇いを覚えます」

「それは重々承知の上です」

僕は食い下がる。

「辛いお話になりますよ…?…沖田さんのお仲間の事も…沖田さん自身の事も…」

「覚悟は出来ています。それでも僕は、僕の愛した新撰組がどのような最期を辿るのかが知りたい」

「…………」

苦しげな表情で、沈黙を続ける奈津美さん。

しかし。

「…わかりました」

重苦しい空気と共に、奈津美さんはやっと、その言葉を吐き出した。








そこから先の話は、僕にとって耳を覆いたくなるような話だった。

新撰組から裏切り者が出て、同じ新撰組の隊士同士で斬り合ったという話。

次第に時代は志士達に傾き、新撰組も負け戦を余儀なくされたという話。

その流れの中、局長である近藤さんが官軍に捕縛され、処刑されたという話。

その後も新撰組は転戦し、戊辰戦争という戦の中で、副長の土方さんが戦死。

それと同時に新撰組も事実上、消滅したという話。

…新撰組の隊士で生きて明治時代を迎える事が出来たのは、ほんの数えるほどだったという…。


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