沖田総司は恋をする
…衝撃的だった。

あんなに強かった近藤さんや土方さんや、百戦錬磨の猛者が集う新撰組でさえも、時代の流れには勝てなかったというのか…。

「……」

無念さに膝の上で拳を握り締め、涙を必死に堪える。

「沖田さん…」

同じように涙ぐむ奈津美さんを見ていると、胸を締め付けられるような思いがした。

「最後に…もう一つだけ教えていただけますか…」

僕は顔をあげる。

「僕は…新撰組一番隊組長、沖田総司はどのような最期を辿ったのですか…?」

「…っ…」

その質問に、奈津美さんは唇を噛み締める。

…無理もない。

本人を前にして、貴方はこんな死に様を迎える、などと言えるほど、奈津美さんは冷酷な女性ではない。

こんな事を言わせるのは、あまりにも酷だというものだろう。

「…すみません、思慮が足りませんでした」

僕は苦笑いする。

「きっと僕も、土方さんのように、戦の果てに命を落とすのでしょうね…それだけわかれば十分です」

「…あ、あの…」

奈津美さんは苦しげに、何かを言おうとする。

しかし。

「いえ…なんでもありません…」

結局は言えないまま、口を噤む。

…僕は、それが奈津美さんの優しさだと思っていた。

だが。





奈津美さんは、この時真実を告げようとしていたのだ。

僕が、『戦の中で死ぬのではない』という、侍にとってあまりにも残酷な真実を…。

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