沖田総司は恋をする
沖田さんがとても強い人なのは知っている。

新撰組の一番隊組長で、剣術がとても得意で、大勢を相手に一人で戦って、それでも勝てちゃうすごい人。

昔、歴史に詳しい友達がいて、その辺の事は耳にタコが出来るくらい聞かされた。

でも…。

だからって万能な訳じゃない。

私がここ数日見てきた沖田さんは、華奢な感じの男の人で、優しくて、おとなしくて。

本当に、普通の青年という感じだった。

そりゃあ、剣術は強いのかもしれない。

だけど、剣を取り上げちゃえば、普通の人だ。

そんな普通の人が、炎の真っ只中に飛び込んでいって、何ができるっていうの!?

そう思っていた。

でも…。

「…う…嘘…」

私の隣で、へきるさんが愕然としたように呟く。

私も、へきるさんが呟かなければ代わりに呟きたいくらいだった。

…沖田さんは、あっという間に…本当にあっという間に五階まで駆け上がっていた。

信じられない。

だって、さっき階段に足をかけたばかりじゃない…!

侍って…ううん、人間って…あんなに速く走れるようになるものなの!?

そこまで考えて、私はやっと思い至った。

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