沖田総司は恋をする
幕末からおよそ150年。

それだけの時を経てなお、『沖田総司』という名は歴史に残り、人々に語り継がれている。

それはどういう事か。

それ程、人々の記憶に残るほどの鮮烈な印象を残す英雄だったという事だ。

ただ剣術が強いだけの人間が、ここまで後世に名を残す筈がない。

剣術の強い人間なら、他にもたくさんいた筈なのだ。

それでも沖田総司という名は異彩を放っている。

…彼の強さは、剣腕のみに非ず、という事。

その身体能力も、際立っていたという事なのだ。

もしかしたら、オリンピックにでも出たらメダルを総取りできるかもしれないくらい。



            ◆◆◆◆◆



ようやく女の子のいた部屋の前に到着した。

鉄の頑丈な扉を開けようとするが。

「つっ!」

鍵がかかっている上、取っ手が焼けて、握る事すらできないほど熱い。

中は、相当な温度になっているという事か。

…こうしてはいられない。

女の子の安否が気になる。

僕は窓を見つけ、そこから中に侵入する事にした。

助走をつけ、頭から一気に飛び込む!

硝子の割れる音と共に、僕は室内に入ることに成功した。

硝子の破片で肩や頬を切ってしまったが、大した傷ではない。

それより…。

「くっ…」

すごい温度だった。

息を吸う事すらままならないほどの温度。

こんな地獄のような中で、幼子が一人取り残されているというのか…。

「おい!どこにいる!声を出せ!」

僕は必死になって叫んだ。

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