沖田総司は恋をする
ぐったりとした幼子を抱き上げる。

随分と衰弱しているものの、まだ意識は残っていた。

大丈夫、助かる。

否、助ける!

しかし。

「くっ…!」

ここまで辿り着くのに時間をかけすぎた。

既に炎によって退路は断たれ、僕と幼子は完全に真紅の檻に囲まれていた。

…一か八か突っ切るか。

いや、僕一人ならばそれでも構わないが、この子を抱きかかえたまま、そのような無謀な真似はできない…。

苦渋に満ちた表情を、汗が伝う。

ならば、せめてこの子だけでも…。

わが身を盾に、炎の中を進もうとしたその時だった。

「馬鹿野郎、そこを動くな!」

背後から声がした。

…しかしそんな筈はない。

背後は窓だ。

そしてここは五階。

人が昇って来れる筈が…。

そう思って振り向くと。

「ほら、こっちだ!」

銀色の装束を身にまとった男が、信じられないほど長い梯子から身を乗り出していた。

…彼がこの時代の火消しだと知ったのは、無事に救助された後だった。

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