沖田総司は恋をする
チン、という鈴のような音と共に、扉が開いた。

そこは既に60階だった。

「何と…」

僕はただただ驚く。

「えれべぇたぁ…このような箱が、一瞬にしてここまで僕達を運ぶとは…」

「ね?便利でしょ?」

まるで我が事のように、奈津美さんは自慢げだった。

…彼女と僕は、歩いて窓の側まで行く。

60階は全て硝子で囲まれていて、展望台のようになっていた。

その、足がすくむような高所からの眺めは、自分が鳥にでもなったような錯覚を覚えさせる。

「…すごい」

高さも勿論だが、そこから見える街の様子に驚愕を覚えた。

見渡す限りの灰色の建物。

この建物が高いとはいえ、他にも高層の建物は数多く存在した。

自動車も、この位置からはまるで玩具のように見える。

「沖田さんの時代とは、随分違う風景でしょうね」

奈津美さんが隣で言う。

「ええ。しかし…」

僕は呟く。

「この街に存在する建物のひとつひとつに人間がいて、家族があって、人々の営みがある…その事は、今も昔も変わりません。僕は昔から、こうして街の様子を眺めるのが好きなんです」

「そうですか…だったら来た甲斐がありました」

奈津美さんは嬉しそうに笑った。

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