沖田総司は恋をする
建物を出た僕と奈津美さんは、二人で街中を散策した。

天気もよく、絶好の散歩日和だった。

街に立ち並ぶ様々な店を見て回った。

奈津美さんは女性という事もあって、装飾品や着物の店に興味津々の様子だった。

僕は僕で、自分の時代では見た事もないものばかりで、その便利さや技術の進歩に驚いてばかりだった。

この時代は、僕が思っていた以上に広く、僕が考えていた以上に文明が発達している。

僕の時代からすれば、それこそ夢の世界であった。

何より、その夢の世界で生き生きとした表情を浮かべる奈津美さんを見ていると、それが我が事のように幸せに思えてくるのだ。

…この時代は、僕や新撰組が理想に描いた世界とは違うかもしれない。

だが、その結果、奈津美さんやこの世界の人々が笑顔で暮らせるのならば、それはそれでいい事なのかもしれない。

僕達新撰組が描いていた理想の新時代とは、こういうものなのかもしれない。

戦に命を落とし、愛する者を失い、家族と離れ離れになる。

そんな悲しい現実を受け止める必要のない、無辜の民が笑顔で暮らせる世界。

それが叶えられるのならば、西洋化の波に翻弄されようと、侍の時代の終焉が来ようと、一向に構わない。

その事に気づかせてくれたのは…今目の前で笑っている、この女性なのだ。

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