沖田総司は恋をする
かふぇ、という茶屋に入り、僕と奈津美さんは一息入れる。

ここで初めて飲んだ「かふぇおれ」という西洋のお茶は、甘くて、苦くて…それでも美味しいと思えた。

今の僕の気分に似ていたからかもしれない。

甘くて、嬉しくて、苦くて、少し複雑な気分。

それは、僕が奈津美さんに対して抱いている気持ちそのものであった。

が…僕はそれを告げるつもりはない。

…僕はこの時代の人間ではない。

へきるさんが今調整してくれている時間跳躍機の準備が終われば、僕はこの時代を離れ、再び動乱の幕末へと戻る。

再び新撰組一番隊組長としての務めに戻るのだ。

そんな僕が、奈津美さんにこの気持ちを告げたところでどうなる。

いなくなる人間から、淡い恋心を告げられる。

その事でどれだけ奈津美さんが苦しむ事になるのか。

遠くの土地に行く、または死んでしまう…それならまだいい。

生きているのに、絶対に会う事ができないという矛盾。

生きている時間が違うという矛盾。

そんな苦悩を、奈津美さんに味わわせる必要はない。

故にこの気持ちは、僕の胸の中だけにしまっておくべきもの。

僕一人が胸の奥に閉じ込め、僕の時代にまで持ち帰ればいい。

そういう類の感情だった。

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