沖田総司は恋をする
僕はすぐに奈津美さんのそばに立ち、身構える。

「お…沖田さん…?」

「僕から離れないで」

僕は周囲に気を配りながら、振り向く事無く奈津美さんに言った。

…こんな近くに接近されるまで気づかなかった。

油断していたか。

あるいはこの時代の平和な生活で、僕自身が腑抜けていたか。

その事に本気で後悔するほど、危険な状況だった。

…刺すような気配。

この時代に来て、初めて味わう。

しかし僕の時代では、僕は常にこんな気配の中に晒されていた。

…命を狙う、殺意を孕んだ気配。

まさしく、刺客の放つ殺気だった。

「…まさかこんな場所で、鬼の一番隊組長とお会いできるとはな」

…目の前に、男が出てきた。

僕にとっては馴染みの出で立ち。

しかしこの時代には、場違いな格好だった。

蓬髪、薄汚れた着物、野獣のような眼差し、腰に差した刀。

それはまさしく、僕の時代の匂いを身にまとった侍だった。

…今になって思う。

へきるさんの言っていた『時間跳躍機の不具合』というのは大変な事態だったのだと。

時間跳躍機は、僕以外にも幕末の人間をこの時代に召喚していたのだ。

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